2010年 10月 14日
さてこうした動きに対する私見を述べます。まず,事ここに至ったからには,大学関係者として何らかの動きを示さないわけにはいきません。ちょうど科研費の申請時期と重なっているのですが(来年度予算に関わるので時期が重なるのは当然と言えば当然),科研費の申請書を書く前に,パブリックコメントを書くことが,大学に職を持つ者として必要だと思います。 このことを前提として,多少冷静に考えてみますと,このパブリックコメントという仕組みは,相当煩雑だという印象を持っています。各大学では,パブリックコメントの送付の仕方を説明しているのですが,中にはウェブからの送付は面倒だとはっきり書いている大学もありました。文科省の要望事項の数が多いこともあって,説明資料をまともに読み込んだ上でコメントを書こうとすると,結構な時間を要することになるのは間違いありません。この点で,パブリックコメントとは言うものの,実際にそれを提出するには一定の情報処理・作文の能力が求められるわけで,全国民からまんべんなく意見が集められるとは思われません。普段から書類を出す(出させられる)ことに慣れている人たちからの意見が多くなるのではないでしょうか。 他方,仕組みの煩雑さから,資料を読み込まないで,ひたすら原則論を書いたコメントがどうしても多くなることが想像されます。大学によっては,親切にコメント例を掲載しているところもありますので,意見を出すことが何より大切だという観点からすれば,サンプルを大きく利用したコメントが多くなることも想定されます。 ではこうして集められたコメントが実際にどう利用されるのかということですが,日本中から膨大な数のコメントが寄せられることからすると,一つ一つを精密に読んだ上で,妥当性を判断し,分類していくような作業がまともに行われるとは考えにくいです。結局,コメントの「数」と,「結論」だけが問題にされるのではないか,とも予想されます。このような「読み」も,とにかく原則論を書いて送ろうとする傾向を助長するでしょう。他方,突っ込みどころの多いコメントが偶然発見された場合には,折衝の場でつるし上げられる可能性もあるかも知れません。或いは,同じようなコメントが大量にあった場合には,1件としてカウントするような荒技が出て来るのかも知れません。 いくつかの報道でも触れられていますが,このパブリックコメントの山を見て,政府が難しい判断を迫られることは間違いないでしょう。もしパブリックコメントの数を主な材料として政策の採否を判断するなら,そもそも政治家など不要であり,各省庁が政策を考えて,あとはパブリックコメントで決めていけばよいことになります。「政治主導」などとはとても言えません。他方,コメントの数以外の要素を重視するなら,コメントを覆すだけの根拠を政治の側が示さねばならないことになります。これは民意・世論に反する行為ということになりますから,「政治主導」の意味をはき違えているという批判が起こるでしょう。 こういったことから,「政治主導」が演出できるような目玉をいくつか用意して,後はかなり機械的な配分を行うという結末になるのではないか,という予想も成り立ちます。いずれにしても,禍根の残る結果となりそうです。 このように書いているうちに,次のニュースを見つけました。 教員の声?文科省に集中、パブリックコメントの8割超(読売新聞)10.13 これは,寄せられたパブリックコメントのうち8割超が文科省関係であり,「組織票」があるのではないかという推測を紹介しています。これも,「数」が大事なのかどうかという問題を提起しているものと言えます。先月の民主党代表選でも話題になりましたが,これは民主政治の根幹に関わる問題でしょう。しかし,パブリックコメントが大事だということで各大学は必死で動いているわけですから,それを「組織票」という言葉で切り捨てられたらかないません。 最後に一番大切なことを書きます。今回の予算決定方式は,国立大学運営費交付金が毎年大きく変動する(減少する)危険性を高めるものです。一律一割減が要求されたなかで,国立大学運営費交付金の概算要求額は4.8%減となっていますから,相対的に見れば文科省内での配慮がなされたものとも言えます。ただ,予算の構造から考えて,運営費交付金はその多くが人件費に充てられるものであり,恒常的に確保されることが必要ですから,仮に10%減を避けられたからといって良しとできるわけでは到底ありません。 一年ごとに予算が大きく変わり,しかもそれがパブリックコメントと政策コンテストによって決まるとなると,選挙を毎年するようなものだと思います。大学関係経費は,プロジェクト経費であっても,若手研究者の任期付きポストなど,人件費として使われる部分が多くあります。プロジェクトの採否は,若手研究者の生き死にに関わるわけで,研究者の芽が早くから摘まれてしまえば,将来育つ木や草花が大きく減るのは容易に予想でき(人口減少は急に挽回できないのと同じ),砂漠化が進むことになります。大学予算の多くを一年ごとの厳しい査定にかけるのは,多くの研究者を,任期が少なくとも数年はある政治家よりも厳しい境遇に置くことにほかなりません。この非合理は明らかではないでしょうか。 それから,上で科研費の申請書と時期が重なっていることを書きましたが,このブログの記事を含めて,本来研究等に充てられるべき多くの時間が,日本全国で今回の概算要求関係の諸事に費消されることになっているわけです。大学予算の意義を広く共有するという点で,意味がないわけではありませんが,教育や研究というのは本来,いつもいつも「これは意味があるんだ」と自分と周囲に言い聞かせながら行うものではありません。このような非常事態が一刻も早く終結し,平穏であり,そうであるが故に知的刺激に満ちた場が復活することを切に望みます。また,政府には,今回の政策コンテストにかかった人手と費用を分かりやすく公表してほしいと思います。 補足: 19日にはパブリックコメントのホームページがアクセス集中のためにダウンするかも知れませんから,早めに済ませた方がよいでしょう。 #
by bamboo_hermitage
| 2010-10-14 01:40
| 大学
2010年 10月 14日
8月末に文部科学省の概算要求・要望が明らかになり,その後「政策コンテスト」に向けたパブリックコメントの募集が始まりました。これらについては,各種報道や通知でご存知の方が多いことと思いますので,詳細は略します。ここでは,これまでの方式に沿って,各大学の声明やお願いのリンク一覧を掲載します。次の記事に,個人的な意見を記します。さすがに決戦と言ってもよい状況になって,ホームページに文書を出す大学がかなり増えました。内容としては,数字と事実関係の説明が主ですが,中には学長がビデオで説明している大学もあり,学生も対象として全学的な説明会を開いたり,街頭で署名活動を行ったりした大学もあることが分かります。このようなことは,日本の国立大学史上初めてではないでしょうか。 (通常のお知らせなどの欄とは別立てで目立つように掲示している大学も多いですが,本件が一応終了した後にそれら記事を消してしまわないよう希望します) 北海道大学 9.29 運営費交付金等予算の確保に向けて 北海道教育大学 10.1 【緊急声明】平成23年度予算確保のためのご協力のお願い-「元気な日本復活特別枠」に関するパブリック・コメントへご意見を!― 室蘭工業大学 10.5 政策コンテストに係るパブリックコメントの提出のお願い 小樽商科大学 10.1 政策コンテストに係るパブリックコメントの提出のお願い 帯広畜産大学 9.30 運営費交付金等予算の確保に向けて 旭川医科大学 10.1 【重要】「元気な日本復活特別枠」要望に対する「パブリックコメント」の提出について(お願い) 北見工業大学 10.1 「元気な日本復活特別枠」要望事業に関するパブリック・コメントについて 弘前大学 10.6 平成23年度国立大学法人運営費交付金の概算要求に関する「パブリック・コメント」への参加について 岩手大学 日付なし 「元気な日本復活特別枠」要望に関するパブリックコメントに係る岩手大学学長メッセージ(動画あり) 東北大学 10.8 元気な日本復活に向けた高等教育機関としての役割と責任 ~「元気な日本復活特別枠」に対するパブリックコメントのお願い~ 宮城教育大学 10.4 ≪緊急のお願い≫「元気な日本復活特別枠」要望に関するパブリックコメントについて 秋田大学 10.5 !重要なお知らせ 国立大学法人に係る特別枠予算の獲得に向け、パブリックコメントのご協力をお願いいたします。 「元気な日本復活特別枠」要望に関する秋田大学学長メッセージ 山形大学 10.5 【緊急アピール】国立大学予算の確保にご支援を 福島大学 9.28 学生、教職員のみなさんへ。(パブリックコメント募集のお知らせ) 10.1 平成23年度予算「元気な日本復活特別枠」パブリックコメントへの意見掲載のお願い 茨城大学 9.30 平成23年度大学関係予算の確保に向けて一層のご支援を 筑波大学 10.4 「知の拠点」としての国立大学の危機 筑波技術大学 9.30 平成23年度予算「元気な日本復活特別枠」要望に関するパブリック・コメントへの応募のお願い -10月19日まで- 宇都宮大学 10.6 平成23年度大学関係予算の確保に向けて(パブリックコメントでご支援を) 群馬大学 埼玉大学 10.5 パブリックコメント」に参加し、国立大学法人の運営費交付金等の確保にご支援を! 千葉大学 9.29 「元気な日本復活特別枠」要望事業に関するパブリック・コメントへの協力について 東京大学 10.7 「元気な日本復活特別枠」要望事業に関するパブリック・コメントへの東京大学としての意見について 10.4 「明日の東京大学-危機に立つ財政」(説明会)のご案内 9.21 平成23年度概算要求・要望の発表を受けて 東京医科歯科大学 東京外国語大学 東京学芸大学 10.1 教職員・学生・関係者の皆さまへ「国立大学法人の来年度予算について皆さんの声を」 東京農工大学 9.30 平成23年度概算要求にかかる「元気な日本復活特別枠について」~【学長からのお願い】~ 東京芸術大学 9.30 国立大学法人運営費交付金「特別枠」の要望に係るパブリック・コメントのお願い 東京工業大学 10.6 パブリックコメントへの積極的な意見表明を! 東京海洋大学 9.29 【保護者・学生の皆様へ】大学を支える運営費交付金の確保に向けて一層のご支援を 10.1 【重要】「元気な日本復活特別枠について」【学長からのお願い】 10.7 【保護者の皆様へ】大学の危機に際して皆様の声を届けてください お茶の水女子大学 10.6 平成23年度予算編成概算要求についての意見募集(パブリック・コメント)についてのお願い 電気通信大学 10.6 【重要】パブリックコメントにご意見を!教育投資こそ起死回生の道!教育関連経費の確保にご支援をお願いします。(10月19日17:00まで) (この中にリンクがある学長コラム,特に第9号も重要) 一橋大学 10.8 平成23年度国立大学法人関係予算の確保について~パブリック・コメントへの参加を!~ 横浜国立大学 9.30 【緊急】大学の運営のために更なるご支援を 横浜国立大学に関係する主な「元気な日本復活特別枠」要望事業 新潟大学 10.4 平成23年度概算要求に係る「元気な日本復活特別枠」要望に関するパブリックコメントへの協力のお願い 長岡技術科学大学 9.30 【緊急メッセージ】将来の日本を支える人材を輩出する国立大学へのご支援のお願い 上越教育大学 10.5 「元気な日本復活特別枠」要望に関するパブリックコメントについて 山梨大学 10.1 (緊急声明)学長メッセージ -大学運営費交付金の確保にご支援をお願いします。- 信州大学 9.29 【学長緊急アピール】信州大学の運営費の確保にご支援を 政策研究大学院大学 総合研究大学院大学 富山大学 10.6 平成23年度予算に関するパブリックコメント募集への協力について(お願い) 金沢大学 日付なし パブリックコメント 福井大学 10.1 日本の発展を支える 国立大学への応援をお願いします。パブリックコメントの提出にご協力ください。 岐阜大学 10.1 「元気な日本復活特別枠」にかかるパブリック・コメントへの応募について 全教職員および学生諸君へ(緊急報告と協力要請) 静岡大学 9.30 <学長緊急ビデオメッセージ>将来のわが国の教育・研究のために今できること!~国立大学運営費交付金等の確保についてのお願い~ <学長緊急メッセージ>平成23年度国立大学法人関係予算概算要求に係るお願いについて 浜松医科大学 10.1 皆様へ 【緊急】 大学運営の予算確保に向けて更なるご支援を 名古屋大学 9.28 (緊急声明) 危機に直面している国立大学!~国立大学法人の運営費(運営費交付金)の確保にご支援を~ 愛知教育大学 9.28 平成23年度国立大学法人予算について保護者,同窓会員及び本学に関心のあるすべての皆様に訴える緊急声明 緊急全学集会の開催について9.29 名古屋工業大学 10.1 国立大学法人の危機的状況にご支援を! 豊橋技術科学大学 9.28 日本の教育研究を支える国立大学の運営費交付金等の確保にご支援を!【学長からのお願い】 三重大学 9.30 学長緊急アピール 危機に直面している国立大学! 滋賀大学 10.5 「元気な日本復活特別枠」要望へのパブリックコメント参加のお願い 滋賀医科大学 京都大学 京都教育大学 京都工芸繊維大学 10.1 学長緊急声明「国立大学は今、大幅な予算削減の危機に瀕しています!」-「元気な日本復活特別枠」要望に関するパブリックコメントへの参加のお願い- 大阪大学 10.5 「元気な日本復活特別枠」に対するパブリックコメントのお願い -本学における来年度の教育研究予算の確保に向けて- 大阪教育大学 10.1 「元気な日本復活特別枠」要望項目に係る意見募集について(ご協力依頼) 兵庫教育大学 10.1 政策コンテストに関するパブリック・コメントへの参加について(ご協力のお願い) 神戸大学 10.1 【学長緊急アピール】運営費交付金等の要望枠の獲得に向けて- パブリックコメントへ積極的な対応を - 10.6 学生・保護者の皆様へ「元気な日本復活特別枠」の獲得に向けて国立大学法人の予算獲得に皆様からの多くの声を! 奈良教育大学 10.1 文部科学省「元気な日本復活特別枠」要望に関するパブリックコメントについて 奈良女子大学 10.4 平成23年度予算「元気な日本復活特別枠」要望に関するパブリックコメントへの投稿について 学生の皆さま 学費負担者の皆さま 教職員の皆さま 和歌山大学 日付なし (緊急声明)明日の日本を担う若者を育てる教育費確保について-国立大学法人の運営費(運営費交付金)の確保にご支援を- 10.7 協働学習フォーラムを開催しました! 北陸先端科学技術大学院大学 奈良先端科学技術大学院大学 10.6 「元気な日本復活特別枠」のパブリックコメントについて(学長からのお願い) 鳥取大学 島根大学 岡山大学 広島大学 10.1 「元気な日本復活特別枠」要望事業に関するパブリックコメントへご協力よろしくお願いします 山口大学 9.30 パブリックコメント募集~政策コンテスト~政府の予算編成にあなたの声を!~(応募締切:平成22年10月19日午後5時 ※必着) 10.6 国立大学の予算が危機的状況にあります!! パブリックコメントにご協力ください!! 徳島大学 鳴門教育大学 10.1 【重要】学生・教職員の皆様は必ずご覧ください。「元気な日本復活特別枠」要望に関するパブリックコメントへの参加について 香川大学 10.4 香川の教育研究の発展に力をお貸しください 愛媛大学 10.5 愛媛大学運営費交付金の確保に向けたご協力のお願い 高知大学 9.30 「元気な日本復活特別枠」要望項目に係る意見募集について(ご協力依頼) 福岡教育大学 9.28 平成23年度予算「元気な日本復活特別枠」要望に関するパブリックコメントへの応募について(お願い) 九州大学 九州工業大学 佐賀大学 10.5? 【お願い】政策コンテスト「元気な日本復活特別枠」要望事業に関するパブリック・コメント募集へご協力よろしくお願いします。 長崎大学 熊本大学 9.28 【学長声明】教育研究予算の確保についてのご支援のお願い大分大学 10.1 学長から緊急のお願い 平成23年度概算要求における「元気な日本復活特別枠」に関するパブリックコメントへ皆様のご協力を! 宮崎大学 10.5 【重要】「元気な日本復活特別枠」パブリックコメントに参加を! 宮崎大学長 菅沼龍夫 10.12 街頭でパブリックコメントへの協力要請 鹿児島大学 9.29 【教職員・学生の皆様へ】「元気な日本復活特別枠」要望事業に関するパブリック・コメントのご案内について 【卒業生の皆様へ】「元気な日本復活特別枠」要望事業に関するパブリック・コメントのご案内について 【保護者の皆様へ】「元気な日本復活特別枠」要望事業に関するパブリック・コメントのご案内について 鹿屋体育大学 9.30 大学運営・学生の経済的支援の充実のため、ご意見をお願いします。 琉球大学 10.5 「パブリックコメントを提出しよう!」 国大協の新着情報と,理学部長会議,工学系部長会議の緊急声明・宣言も出ています。 国大協 9.29 「元気な日本復活特別枠」要望事業に関するパブリック・コメントを実施(平成22年9月28日(火)から10月19日(火)午後5時まで) 国立大学法人32大学理学部長会議緊急声明 9.8(リンクは北大) 【緊急宣言】国立大学53工学系学部長会議 8.6(リンクは山口大) #
by bamboo_hermitage
| 2010-10-14 01:39
| 大学
2010年 08月 15日
29学会(43万人会員)会長緊急声明(7月30日付)を最近見つけました。これは,これまで紹介してきた大学等の声明に比べて,論点がよく整理され,かつ政府に対する主張が明確に出ているものだと思います。私はこれを見て,運営費交付金を主要な財源として国から受けている国立大学よりも,直接的な国庫補助のない学会の方が自由にものを言えるのだな,と思いました。このような声明をまとめられる人は国立大学にたくさんいるのでしょうが,それぞれの立場で相当穏当なものにせざるを得ないのでしょう。大学のような固い組織を超えて,政府や社会に対して発言するという学会の機能を,高めていく必要があると思います。 しかしこうした意義のある声明であるにもかかわらず,あまりニュースにはなっていないようで,折角の内容がもったいない印象があります。国立大学は法人化後広報活動の強化に一応努めてきたと思いますが,学会の広報機能というのはこれまでどれほど考えられていたでしょうか。また,学会を連合しての広報となるとなおさらです。日本学術会議がこの点でもっと積極的な役割を果たせればよいのかも知れませんが,そういう性格の組織ではないのかも知れません。 ともあれ,事態を大学間の内部的な「競争」,研究者の共食いに収斂させないよう,研究者コミュニティーの連合が必要です。 #
by bamboo_hermitage
| 2010-08-15 23:16
| 大学
2010年 08月 07日
そろそろ各大学もようやく夏休みに入るころと思います。シーリングの大枠が固まったこともあり,各種声明も減ってきた感がありますので,ここでまとめておきたいと思います。★は,声明が新しいニュースによってトップページから隠れてしまっている大学です。(8月6日現在) 北海道大学 7.16 ★ 平成23年度概算要求基準(シーリング)に関する、道内7国立大学学長による共同声明 北海道教育大学 7.16 「平成23年度概算要求(シーリング)による「国立大学法人運営費交付金」の削減に反対!!~「常に学生を中心とした(Students-first)大学」を目指す北海道教育大学の役割~ 室蘭工業大学 7.20 平成23年度概算要求基準(シーリング)に関する、道内7国立大学学長による共同声明 平成23年度概算要求シーリングへの要望 小樽商科大学 なし 帯広畜産大学 7.21 平成23年度概算要求基準(シーリング)に関する道内7国立大学学長による共同声明 旭川医科大学 7.20 平成23年度概算要求基準(シーリング)に関する、道内7国立大学学長による共同声明 北見工業大学 なし 弘前大学 なし 岩手大学 7.13 ★ 【教職員向け学長メッセージ】運営費交付金の平成23年度概算要求基準での削減動向 7.14 藤井学長、岩手県知事等に「概算要求基準での削減動向に関する要望書」提出(県知事への要望書あり) 7.16 中期財政フレームに対する東北地区国立大学長連名による共同声明発表 7.20 藤井学長、民主党岩手県総支部連合会に「概算要求基準での削減動向に関する要望書」提出 東北大学 7.16 ★ 東北地区七国立大学法人学長共同声明について 宮城教育大学 なし 秋田大学 7.16? 【東北地区国立大学長共同声明】平成23年度概算要求枠の「国立大学法人運営費交付金」については、削減の対象から除外するよう求めます。 山形大学 7.20 平成23年度国立大学法人運営費交付金の確保について(緊急アピール) 福島大学 7.14 学長緊急アピール ― 平成23年度からの予算シーリングへの要望(声明)― 7.16 東北地区7大学による共同声明文『「新成長戦略」の下で教育力や研究開発力の向上のための公的投資の拡充を!!』を発表 茨城大学 7.14 【学長緊急アピール】 平成23年度からの予算シーリングへの要望(声明) 筑波大学 7.12 ★ 平成23年度概算要求基準(シーリング)による「国立大学法人運営費交付金」の削減反対!!(共同声明:2010.07.12pdf) 筑波技術大学 なし 宇都宮大学 7.14 ★ 『平成23年度概算要求基準(シーリング)による「国立大学法人運営費交付金」の削減反対!!』共同声明を発表しました 群馬大学 7.14 ★ 『平成23年度概算要求基準(シーリング)による「国立大学法人運営費交付金」の削減に関する共同声明』について 埼玉大学 なし 千葉大学 7.12 【学長緊急アピール】平成23年度概算要求についての要望 8.3 平成23年度概算要求に関する動向について 東京大学 7.19 財政健全化で予算大幅減なら…大学システム崩壊招く 「強い人材」育成に投資を(日本経済新聞 平成22年7月19日 朝刊19面) 7.26 平成23年度概算要求基準における大学予算について(声明)―「元気な日本の復活」を導く「強い大学」づくりを― 7.27 平成23年度概算要求基準の決定を受けて ※トップページに「明日の日本を支えるために―教育研究の危機を越えて―」という専門コーナーがあり,そこにまとめられています。 東京医科歯科大学 なし 東京外国語大学 なし 東京学芸大学 なし 東京農工大学 7.22 【学長緊急アピール】平成23年度概算要求基準への要望 ※7.27に日付が変わってトップページに残っています。 東京芸術大学 なし 東京工業大学 7.23 本学学長が緊急声明を発表 【科学・技術は日本を救う】 7.26 本学学長が国立大学協会東京地区支部(12大学)と共同声明を発表 平成23年度概算要求基準における大学予算について(声明)―「元気な日本の復活」を導く「強い大学」づくりを― 東京海洋大学 7.27 【学長緊急声明】平成23年度概算要求についての要望-海洋立国日本の高等教育機関としての役割を果たすために- 【東京地区国立大学長緊急声明】平成23年度概算要求基準における大学予算について―「元気な日本の復活」を導く「強い大学」づくりを― ※8.5に日付が変わってトップページに残っています。 お茶の水女子大学 なし 電気通信大学 なし 一橋大学 なし 横浜国立大学 なし 新潟大学 7.5 ★ 【学長緊急アピール】平成23年度からの予算シーリングへの要望(声明) 長岡技術科学大学 7.21 ★ 【学長緊急アピール】平成23年度からの中期財政フレームに関する要望~日本の未来を支える「知の拠点」、地域活性化に不可欠な「イノベーション拠点」として我が大学が果たすべき使命~(7月14日付) 上越教育大学 なし 山梨大学 なし 信州大学 7.15 【学長緊急アピール】「財政運営戦略(平成22年6月22日閣議決定)」を受けての国立大学法人運営費交付金の取り扱いについて 政策研究大学院大学 なし 総合研究大学院大学 なし 富山大学 8.3 【北陸地区国立大学連合4大学長による共同声明】 金沢大学 8.3 北陸地区の学長が共同声明を発表 福井大学 7.16 国の成長を支える国立大学法人の運営費交付金の8%削減除外について(緊急声明) 8.3 【緊急声明】北陸地区国立大学連合4大学長による共同声明を発表しました。 岐阜大学 なし 静岡大学 7.15 <学長緊急メッセージ>平成23年度予算編成に向けて国立大学関係予算の確保・充実の要望 浜松医科大学 なし 名古屋大学 なし 愛知教育大学 7.14 平成23年度概算要求基準(シーリング)で国立大学法人運営費交付金を削減対象としないことを求める緊急声明 名古屋工業大学 なし 豊橋技術科学大学 なし 三重大学 なし 滋賀大学 なし 滋賀医科大学 なし 京都大学 なし 京都教育大学 7.16 平成23年度概算要求基準(シーリング)において「国立大学法人運営費交付金」を削減対象としないこと-【教育は未来の先行投資】-<緊急声明> 京都工芸繊維大学 なし 大阪大学 なし 大阪教育大学 なし 兵庫教育大学 なし 神戸大学 なし 奈良教育大学 なし 奈良女子大学 なし 和歌山大学 7.21 明日の日本を担う若者を育てる教育費確保について(声明) 北陸先端科学技術大学院大学 8.3 北陸地区国立大学連合4学長による共同声明について 奈良先端科学技術大学院大学 なし 鳥取大学 7.12 ★ - 教育力や研究開発力向上のための公的投資の拡充を!! -(共同声明) 島根大学 7.12 ★ 教育力や研究開発力向上のための公的投資の拡充を(共同声明) 岡山大学 7.12 教育力や研究開発力向上のための公的投資の拡充を!!(共同声明) 広島大学 7.12 ★ 中国地区国立大学長が共同声明を発表 -教育力や研究開発力向上のための公的投資の拡充を!!- 山口大学 7.9 中国地区国立大学長が共同声明を発表 徳島大学 なし 鳴門教育大学 なし 香川大学 7.9 国立大学法人香川大学の教育研究の維持・発展にご理解をお願いします(緊急声明) 愛媛大学 なし 高知大学 なし 福岡教育大学 なし 九州大学 なし 九州工業大学 なし 佐賀大学 なし 長崎大学 なし 熊本大学 なし 大分大学 なし 宮崎大学 7.22 ★ 地元選出の国会議員等に国立大学関係予算等を要望 鹿児島大学 なし 鹿屋体育大学 なし 琉球大学 8.4 「教職員の皆さんへ(学長・副学長一同)」 今回まとめてみて気になったのは,★をつけた大学でせっかく出した声明や学長による働きかけの報告が,もうトップページから消えてしまっていることです。他のニュースと同列の扱いで済ませてよい話ではありません。トップページから隠れてしまうようでは,「閣議決定があったからもう終わったと思っているのか?」と思われても仕方ないでしょう。大学によっては,トップページに別格に掲載しているところもあり,特に何か考えがあるのでなければ,そうするのが順当と思います。 今回全国のホームページを巡ってみて,めぼしい動きとしては首都圏の大学の動きと,北陸四大学の共同声明がありました。北から順に並べてみると,北海道から甲信越・北陸まではかなり声明等の動きが出ていますが,関西以西の動きが相対的に鈍いことに気付かされます。これが何を意味しているのかはよく分かりません。学生募集の動向とも関係しているのでしょうか。 内容的に気になったのは,東京大学の「平成23年度概算要求基準の決定を受けて」と,琉球大学の「教職員の皆さんへ(学長・副学長一同)」です。前者は次の文で結ばれています: 当面は、この概算要求基準の下で、文部科学省がどのような分野・事業に重点を置いて概算要求を行うのか、その動向を注視することになります。東京大学としては、その帰趨がいずれにせよ、無駄や非効率の徹底した削減・解消を図りつつ、教育研究水準の維持・向上のため、最大限の努力を払う所存です。東京大学憲章などに示された本学の社会的使命に照らし、真になすべきことは何かを改めて確認しつつ、健全な経営に当たっていく決意でおります。「強い大学」づくりを通じて社会に貢献しようとする全ての大学に対し、国民の皆さま、各界からの、格別の御理解と御協力をお願い申し上げます。 予算を大幅に削られても,とにかく頑張るということで,もし水面下で運営費交付金の確保の見通しが立っているなら,一種の勝利宣言になるでしょうが,もし字面通りの意味であるとすれば,何だか大企業の「下請けいじめ」に遭っている中小企業の社長が,社員に対して「つらいけど頑張ろう」と言っているような文であり,哀しいものがあります。東大総長がこのようなことを書かなければならないのですから,本当にこの国で大学というのは弱いのだということを思い知らされます。フランスかどこかであれば,全国の国立大学でストが起こってもおかしくないところです。 他方琉球大学の文書は,題名は地味ですが,内容的にはかなり踏み込んだものであり,1頁目の最後の部分が注目されます: 来年度に向け各部局等におかれましては,概算要求を今から準備することや科研費の獲得の準備をする必要があります。なお,各省庁はもちろん大学も削減されたままでは困りますので,この特別枠を狙って熾烈な競争が起こっています。 熾烈な競争は既に「起こっている」のです。このことを,現時点で明確に示した大学は恐らく琉球大学だけでしょう。これが事実だとすると,中期目標・中期計画の実現状況を評価することで大学間競争を進めるという第一期時点とは全く別の,より露骨な「競争」が始まったことになります。各大学は,中期目標を着実に実行していけばよいのか,それともそれとは別のことをしなければならないのか,混乱を極めることが予想されます。もっとも,各大学には混乱を極める体力ももうないかも知れません。個人的には,こういう理不尽な「競争」には乗るべきではないとも思います。 閣議決定を受け,国大協も新たな要望を出しました。内容的には7月14日のものとあまり変わらないように思います。 平成23年度国立大学関係予算の確保・充実について(緊急要望) 8.2 ※国大協のトップページには見つからないが,「大学予算の1割削減をどう考えますか」(大学サラリーマン日記)にリンクあり。 以前出た8%減の試算を,シーリング方針に合わせ10%減に改めたものも出ています。 「政府交付金10%減額の影響 - 試算」(国立大学財務・経営センター 研究部長 金子元久) 全国知事会では,7月16日の要望案を確定し文部科学省へ提出しています。 「平成23年度国の施策並びに予算に関する提案・要望」(社会文教関係)の要請について 7.23 最近とこれからの動きについて,私が見たものの中で一番重要と思うのは次のリンクです。「平成23年度文部科学省における概算要求組替え基準の姿」という図が今回のシーリングの概要を示していますが,結局高校無償化と日本私立学校振興・共済事業団補助以外はどれがどれだけ削減されるか未定ということであり,前にも書いたように1割以上減になる費目も出てくる可能性があります。 「平成23年度各省庁の概算要求バトルロワイヤルが始まる」(国立大学職員の趣味日記) 上記の声明等と重ならない報道としては以下のものを見つけました。 国立大交付金、愛媛大「14億円減」 11年度予算:運営交付金削減問題 5市長が愛教大支援をアピール /愛知 愛教大への支援 周辺5市長訴え「交付金削減しないで」(愛知) 東大学長と共産党が懇談 大学予算1割削減で8学部・科 廃止相当 ファイル:国立大学法人の運営費交付金、一律1割減に縛られず 最後のものは,一見すると国立大学運営費交付金は確保するという意味にも読めますが,他方無駄削減の名の下で大なたが振るわれる可能性もあり,結局これだけではよく分かりません。 大学は夏休みに入ったものの,私を含む一般の教職員・学生の見えない所で,日本の大学・学術にとって天下分け目の戦いになるかも知れぬ夏の陣が進められていくのでしょう。後から見れば,法人化は大坂冬の陣,今年のシーリングは大坂夏の陣になぞらえられるかも知れません。 さて,今回の件については,近日中に次の二つのエントリを書きたいと思っていますが,自分のメモ代わりの意味も合わせて,要点を書いておきます。 1.国立大学民営化への道 財政審の提言・財務省の野望が,3年連続1割減で実現する 一律予算削減のどさくさで強制的に進められる「大学改革」 私立大学の増大傾向からの必然性 勢いを押しとどめる者がいない国 2.法人化の岐路 予算の大幅削減で中期目標・計画実行は不可能 評価→改善のプロセスをぶちこわす財政の論理 国立大学の機能停止はありうるか #
by bamboo_hermitage
| 2010-08-07 02:28
| 大学
2010年 07月 28日
27日にニュースで伝えられたように,概算要求については先週来の報道のように閣議決定されたようです。これから「特別枠」の獲得をめぐって,各省庁が対策を立てることになるのでしょう。「特別枠」は,日本の(経済)成長と関わるものなので,応用・産業化に直結するような予算がふさわしいと考えられ,大学運営費のような経常的な経費はそぐわないと見られます。国家戦略として推進されているような大型プロジェクトは,元々成長につながるという目的で考えられたものだったはずですから,正に「特別枠」に合致していると言えるでしょう。ここで希望したいのは,運営費交付金のような経常的な予算については削減率をできるだけ抑え,上記のような大型プロジェクトを「仕分け」結果に基づいて一旦削減し,改めて論拠を立て直して「特別枠」として申請することです。恐らくそれが,今回の最適解だろうと思います。「特別枠」には,人材育成も含まれているようなので,大学教育の中でプロジェクト的色彩の強いもの(GPなど)を含めてもよいかも知れません。結局,政府・財務省の方針は固まった訳ですから,これからはむしろ文科省内の予算配分をめぐって働きかけが必要になるということかも知れません。 コメントで教えていただきましたが,国大協東京地区支部が声名を出しました。(7.26) 平成23年度概算要求基準における大学予算について(声明)―「元気な日本の復活」を導く「強い大学」づくりを― 東京海洋大学も声名を出しました。(7.27) -海洋立国日本の高等教育機関としての役割を果たすために- 全国の動向調査はしばらくお待ち下さい。 さて,先のことを考えると,問題は今回のような削減+特別枠という方針が来年度以降も続くのかということです。当初国大協が示したように数%~十数%の削減が毎年重なるとすると,現在の国立大学の運営方式は次々年度には崩壊するでしょう。前回書いたように,教育研究経費が削られる一方学費が値上がりし,退職教員はほぼ例外なく不補充,現職教員は業務負担の増加(=研究時間の更なる減少)に反して給与も下げられていくでしょう。こうした状況を見れば,大学院への進学者はますます減るはずなので,学術衰退の負のスパイラルが一気に加速することになります。 私が理解できないのは,こうした状況が到来することが火を見るより明らかなのに,なぜ政策立案者はこうした方針を採用するのだろうか,ということです。近代以来の歴史の中で,国家が自立するということには色々な側面がありましたが,その内の一つが学術的な自立であり,すなわち国内で学術再生産のプロセスが回るようにすることです。先進国から学者をたいへんな高給で招聘して高等教育を担当してもらい,学生を先進国に留学させるのが最初です。それから,そうした留学生が帰国して,大学で教えるようになります。その次は,それら留学帰りの学者に教育された学生が,自国の大学で養成されるようになります。最後に,自国の大学・大学院を卒業した人が自国の大学に職を得て教育研究に従事するようになります。これで,いわば学術の自給が一通りできあがることになります。(もっとも,外国との研究交流や,最先端の研究成果・理論の輸入は当然続きます。また,学位の国際通用性,すなわち国内の研究成果の輸出も必要です) 学術の自給状態とは,こうして再生産プロセスが出来上がることのみならず,国内で研究コミュニティーがある程度の規模を持ち,まとまったものになるということでもあります。すなわち,自国語で議論し,論文を書くことが可能であり,学術的な意味を持つということです。このためには,様々な学術用語が自国語に翻訳されている必要もあります。日本は世界有数の翻訳大国だと言えるでしょうが,外国語で書かれた研究を自国語で読めるようにするというのも,こうした研究コミュニティーの形成において要請されることです。こうして考えてみますと,日本は古くは中国の学問を訓読という独特の方法によって日本化して吸収(改変)し,新しくは西洋の学問を翻訳して吸収してきたと言えます。この事業に費やされた先人の時間と労苦は想像を絶するものがあります。 学術の衰退を選択するということの背後には,こうした長い歴史を持った営みを「コスト」と考える発想があるのだろうと思います。たいへんな高給で先進国の学者を招聘すると書きましたが,その一時的な招聘費用と,国内で研究者を養成し,研究者に職を与え,長く給与を支払うことと,総合した場合どちらがコストがかかるでしょう。翻訳にかかる労力も大変なものなので,その労力があれば他の仕事をしてもらった方が良いのではないか。自前で学者を育て研究させるのではなく,必要な時は海外から「買って」来て,成果を落としてもらえばよいのではないか。財政の緊迫の中で,長期的な効用を考えることのないこうした発想が現在強まっているのではないでしょうか。 しかしこうした発想は,長いスパンで考えれば日本の歴史の中で蓄積されてきた遺産を否定するものです。現在でも研究者は国民の側を向いていないと思われているかも知れませんが,日本語を研究上の言語として使う人が少なくなれば,さらに学術は社会から隔絶されることになります。言ってみれば「知の植民地化」がもたらされるのかも知れません。そしてそれは,恐らく日本の歴史でかつてなかったことなのだと思います。 民主党のマニフェストには高校無償化があり,最近ではクラス規模の縮小,電子教科書の計画などが話題にのぼっているようですが,反面高等教育・科学技術に関する政策は乏しいようです。この状況を見ると,民主党は初中等教育を充実させて,かつて日本が誇っていたような,「勤勉な労働者」の育成に力を入れたいのだろうか,と思わされます。そうして製造業によって高度成長を遂げた戦後日本を再演したいのでしょうか。しかし少子化によって人口構成が大きく変動している訳ですから,もはやその道は閉ざされているように思われます。むしろ,単に敗戦後の貧しさに戻るだけのような気がします。経済的地位の衰退によって為替レートが下がり,賃金が下がり,輸出産業の競争力が回復し,他国の消費に貢献する。他方,外国に都合のよい理論が学界で唱えられ,それを国民が理解しないうちに,政策に取り入れられていく,という近未来を想像します。以上は大変大雑把な議論で,大げさに思われるかも知れませんが,学術の衰退というのは,日本という国が自立性を失っていくことの一環です。 ただ,このように書くと,「学術が社会に必要なことはともかく,それでも現在の大学の数は多すぎるのでは?」という意見も出されるでしょう。これに対しては,教育と研究は別だ,ということを述べたいと思います。教育は確かに学生数によって規模が定まる面があるため,少子化が進めば規模の拡大は考えにくいと思われます。他方,国内で少子化が進もうが進むまいが,世界の学術はそれとは関係なく拡大発展します。研究を大学が主に担う状況では,少子化が進んで大学が縮小すると,研究も同様に縮小することになってしまいます。しかし研究は基本的に拡大するものですから,結局日本の研究面での地位は下がることになります。こうした事態を防ぐためには,研究面で後れを取らないために,大学の規模とは別に,どれだけの研究者集団を確保すべきか,という議論が必要です。一部の大学教員を,少子化で必要性が減じた教育から解放して専ら研究に従事させるという発想もあって然るべきなのです。しかしこうした議論はこれまであまりなされてこなかったように思います。一部の研究所を除いて,研究者=教育者という前提で考えてきたからです。研究者の多くは教育者として給料をもらって生きています(俸給表にも「教育職」と書いてある)。そのため,研究者の側も,研究は単に「自分のやりたいこと」であり,それによって生活しているという意識を持ちにくい面があったでしょう。研究は趣味であり教育は義務であるという暗黙の合意が,研究者と社会の間にあったでしょう。また,税金を使って研究が行われている以上,利益を上げるべきではないという考え方もあるでしょう。少子化によって,大学で教育を担当することによって生計を立てるという,研究者の一種の「ビジネスモデル」が縮小を余儀なくされるわけですから,大学数の増減に左右されず研究をどうやって維持するか,国家としてどれくらいの規模の研究者を確保すべきなのか,ということについて考える必要がある時期になっていると思います。 #
by bamboo_hermitage
| 2010-07-28 04:19
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