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万不草堂

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2010年 08月 07日

国立大学運営費交付金激減?問題(5)

そろそろ各大学もようやく夏休みに入るころと思います。シーリングの大枠が固まったこともあり,各種声明も減ってきた感がありますので,ここでまとめておきたいと思います。★は,声明が新しいニュースによってトップページから隠れてしまっている大学です。(8月6日現在)

北海道大学 7.16 ★
平成23年度概算要求基準(シーリング)に関する、道内7国立大学学長による共同声明
北海道教育大学 7.16
「平成23年度概算要求(シーリング)による「国立大学法人運営費交付金」の削減に反対!!~「常に学生を中心とした(Students-first)大学」を目指す北海道教育大学の役割~
室蘭工業大学 7.20
平成23年度概算要求基準(シーリング)に関する、道内7国立大学学長による共同声明
平成23年度概算要求シーリングへの要望
小樽商科大学 なし
帯広畜産大学 7.21
平成23年度概算要求基準(シーリング)に関する道内7国立大学学長による共同声明
旭川医科大学 7.20
平成23年度概算要求基準(シーリング)に関する、道内7国立大学学長による共同声明
北見工業大学 なし
弘前大学 なし
岩手大学 7.13 ★
【教職員向け学長メッセージ】運営費交付金の平成23年度概算要求基準での削減動向
7.14
藤井学長、岩手県知事等に「概算要求基準での削減動向に関する要望書」提出(県知事への要望書あり)
7.16
中期財政フレームに対する東北地区国立大学長連名による共同声明発表
7.20
藤井学長、民主党岩手県総支部連合会に「概算要求基準での削減動向に関する要望書」提出
東北大学 7.16 ★
東北地区七国立大学法人学長共同声明について
宮城教育大学 なし
秋田大学 7.16?
【東北地区国立大学長共同声明】平成23年度概算要求枠の「国立大学法人運営費交付金」については、削減の対象から除外するよう求めます。
山形大学 7.20
平成23年度国立大学法人運営費交付金の確保について(緊急アピール)
福島大学 7.14
学長緊急アピール ― 平成23年度からの予算シーリングへの要望(声明)―
7.16
東北地区7大学による共同声明文『「新成長戦略」の下で教育力や研究開発力の向上のための公的投資の拡充を!!』を発表
茨城大学 7.14
【学長緊急アピール】 平成23年度からの予算シーリングへの要望(声明)
筑波大学 7.12 ★
平成23年度概算要求基準(シーリング)による「国立大学法人運営費交付金」の削減反対!!(共同声明:2010.07.12pdf)
筑波技術大学 なし
宇都宮大学 7.14 ★
『平成23年度概算要求基準(シーリング)による「国立大学法人運営費交付金」の削減反対!!』共同声明を発表しました
群馬大学 7.14 ★
『平成23年度概算要求基準(シーリング)による「国立大学法人運営費交付金」の削減に関する共同声明』について
埼玉大学 なし
千葉大学 7.12
【学長緊急アピール】平成23年度概算要求についての要望
8.3
平成23年度概算要求に関する動向について
東京大学 7.19
財政健全化で予算大幅減なら…大学システム崩壊招く 「強い人材」育成に投資を(日本経済新聞 平成22年7月19日 朝刊19面)
7.26
平成23年度概算要求基準における大学予算について(声明)―「元気な日本の復活」を導く「強い大学」づくりを―
7.27
平成23年度概算要求基準の決定を受けて
※トップページに「明日の日本を支えるために―教育研究の危機を越えて―」という専門コーナーがあり,そこにまとめられています。
東京医科歯科大学 なし
東京外国語大学 なし
東京学芸大学 なし
東京農工大学 7.22
【学長緊急アピール】平成23年度概算要求基準への要望
※7.27に日付が変わってトップページに残っています。
東京芸術大学 なし
東京工業大学 7.23
本学学長が緊急声明を発表 【科学・技術は日本を救う】
7.26
本学学長が国立大学協会東京地区支部(12大学)と共同声明を発表 平成23年度概算要求基準における大学予算について(声明)―「元気な日本の復活」を導く「強い大学」づくりを―
東京海洋大学 7.27
【学長緊急声明】平成23年度概算要求についての要望-海洋立国日本の高等教育機関としての役割を果たすために-
【東京地区国立大学長緊急声明】平成23年度概算要求基準における大学予算について―「元気な日本の復活」を導く「強い大学」づくりを―
※8.5に日付が変わってトップページに残っています。
お茶の水女子大学 なし
電気通信大学 なし
一橋大学 なし
横浜国立大学 なし
新潟大学 7.5 ★
【学長緊急アピール】平成23年度からの予算シーリングへの要望(声明)
長岡技術科学大学 7.21 ★
【学長緊急アピール】平成23年度からの中期財政フレームに関する要望~日本の未来を支える「知の拠点」、地域活性化に不可欠な「イノベーション拠点」として我が大学が果たすべき使命~(7月14日付)
上越教育大学 なし
山梨大学 なし
信州大学 7.15
【学長緊急アピール】「財政運営戦略(平成22年6月22日閣議決定)」を受けての国立大学法人運営費交付金の取り扱いについて
政策研究大学院大学 なし
総合研究大学院大学 なし
富山大学 8.3
【北陸地区国立大学連合4大学長による共同声明】
金沢大学 8.3
北陸地区の学長が共同声明を発表
福井大学 7.16
国の成長を支える国立大学法人の運営費交付金の8%削減除外について(緊急声明)
8.3
【緊急声明】北陸地区国立大学連合4大学長による共同声明を発表しました。
岐阜大学 なし
静岡大学 7.15
<学長緊急メッセージ>平成23年度予算編成に向けて国立大学関係予算の確保・充実の要望
浜松医科大学 なし
名古屋大学 なし
愛知教育大学 7.14
平成23年度概算要求基準(シーリング)で国立大学法人運営費交付金を削減対象としないことを求める緊急声明
名古屋工業大学 なし
豊橋技術科学大学 なし
三重大学 なし
滋賀大学 なし
滋賀医科大学 なし
京都大学 なし
京都教育大学 7.16
平成23年度概算要求基準(シーリング)において「国立大学法人運営費交付金」を削減対象としないこと-【教育は未来の先行投資】-<緊急声明>
京都工芸繊維大学 なし
大阪大学 なし
大阪教育大学 なし
兵庫教育大学 なし
神戸大学 なし
奈良教育大学 なし
奈良女子大学 なし
和歌山大学 7.21
明日の日本を担う若者を育てる教育費確保について(声明)
北陸先端科学技術大学院大学 8.3
北陸地区国立大学連合4学長による共同声明について
奈良先端科学技術大学院大学 なし
鳥取大学 7.12 ★
- 教育力や研究開発力向上のための公的投資の拡充を!! -(共同声明)
島根大学 7.12 ★
教育力や研究開発力向上のための公的投資の拡充を(共同声明)
岡山大学 7.12
教育力や研究開発力向上のための公的投資の拡充を!!(共同声明)
広島大学 7.12 ★
中国地区国立大学長が共同声明を発表 -教育力や研究開発力向上のための公的投資の拡充を!!-
山口大学 7.9
中国地区国立大学長が共同声明を発表
徳島大学 なし
鳴門教育大学 なし
香川大学 7.9
国立大学法人香川大学の教育研究の維持・発展にご理解をお願いします(緊急声明)
愛媛大学 なし
高知大学 なし
福岡教育大学 なし
九州大学 なし
九州工業大学 なし
佐賀大学 なし
長崎大学 なし
熊本大学 なし
大分大学 なし
宮崎大学 7.22 ★
地元選出の国会議員等に国立大学関係予算等を要望
鹿児島大学 なし
鹿屋体育大学 なし
琉球大学 8.4
「教職員の皆さんへ(学長・副学長一同)」

今回まとめてみて気になったのは,★をつけた大学でせっかく出した声明や学長による働きかけの報告が,もうトップページから消えてしまっていることです。他のニュースと同列の扱いで済ませてよい話ではありません。トップページから隠れてしまうようでは,「閣議決定があったからもう終わったと思っているのか?」と思われても仕方ないでしょう。大学によっては,トップページに別格に掲載しているところもあり,特に何か考えがあるのでなければ,そうするのが順当と思います。

今回全国のホームページを巡ってみて,めぼしい動きとしては首都圏の大学の動きと,北陸四大学の共同声明がありました。北から順に並べてみると,北海道から甲信越・北陸まではかなり声明等の動きが出ていますが,関西以西の動きが相対的に鈍いことに気付かされます。これが何を意味しているのかはよく分かりません。学生募集の動向とも関係しているのでしょうか。

内容的に気になったのは,東京大学の「平成23年度概算要求基準の決定を受けて」と,琉球大学の「教職員の皆さんへ(学長・副学長一同)」です。前者は次の文で結ばれています:

当面は、この概算要求基準の下で、文部科学省がどのような分野・事業に重点を置いて概算要求を行うのか、その動向を注視することになります。東京大学としては、その帰趨がいずれにせよ、無駄や非効率の徹底した削減・解消を図りつつ、教育研究水準の維持・向上のため、最大限の努力を払う所存です。東京大学憲章などに示された本学の社会的使命に照らし、真になすべきことは何かを改めて確認しつつ、健全な経営に当たっていく決意でおります。「強い大学」づくりを通じて社会に貢献しようとする全ての大学に対し、国民の皆さま、各界からの、格別の御理解と御協力をお願い申し上げます。

予算を大幅に削られても,とにかく頑張るということで,もし水面下で運営費交付金の確保の見通しが立っているなら,一種の勝利宣言になるでしょうが,もし字面通りの意味であるとすれば,何だか大企業の「下請けいじめ」に遭っている中小企業の社長が,社員に対して「つらいけど頑張ろう」と言っているような文であり,哀しいものがあります。東大総長がこのようなことを書かなければならないのですから,本当にこの国で大学というのは弱いのだということを思い知らされます。フランスかどこかであれば,全国の国立大学でストが起こってもおかしくないところです。

他方琉球大学の文書は,題名は地味ですが,内容的にはかなり踏み込んだものであり,1頁目の最後の部分が注目されます:
来年度に向け各部局等におかれましては,概算要求を今から準備することや科研費の獲得の準備をする必要があります。なお,各省庁はもちろん大学も削減されたままでは困りますので,この特別枠を狙って熾烈な競争が起こっています。

熾烈な競争は既に「起こっている」のです。このことを,現時点で明確に示した大学は恐らく琉球大学だけでしょう。これが事実だとすると,中期目標・中期計画の実現状況を評価することで大学間競争を進めるという第一期時点とは全く別の,より露骨な「競争」が始まったことになります。各大学は,中期目標を着実に実行していけばよいのか,それともそれとは別のことをしなければならないのか,混乱を極めることが予想されます。もっとも,各大学には混乱を極める体力ももうないかも知れません。個人的には,こういう理不尽な「競争」には乗るべきではないとも思います。

閣議決定を受け,国大協も新たな要望を出しました。内容的には7月14日のものとあまり変わらないように思います。
平成23年度国立大学関係予算の確保・充実について(緊急要望) 8.2
※国大協のトップページには見つからないが,「大学予算の1割削減をどう考えますか」(大学サラリーマン日記)にリンクあり。

以前出た8%減の試算を,シーリング方針に合わせ10%減に改めたものも出ています。
「政府交付金10%減額の影響 - 試算」(国立大学財務・経営センター 研究部長 金子元久)

全国知事会では,7月16日の要望案を確定し文部科学省へ提出しています。
「平成23年度国の施策並びに予算に関する提案・要望」(社会文教関係)の要請について 7.23

最近とこれからの動きについて,私が見たものの中で一番重要と思うのは次のリンクです。「平成23年度文部科学省における概算要求組替え基準の姿」という図が今回のシーリングの概要を示していますが,結局高校無償化と日本私立学校振興・共済事業団補助以外はどれがどれだけ削減されるか未定ということであり,前にも書いたように1割以上減になる費目も出てくる可能性があります。
「平成23年度各省庁の概算要求バトルロワイヤルが始まる」(国立大学職員の趣味日記)

上記の声明等と重ならない報道としては以下のものを見つけました。
国立大交付金、愛媛大「14億円減」
11年度予算:運営交付金削減問題 5市長が愛教大支援をアピール /愛知
愛教大への支援 周辺5市長訴え「交付金削減しないで」(愛知)
東大学長と共産党が懇談 大学予算1割削減で8学部・科 廃止相当
ファイル:国立大学法人の運営費交付金、一律1割減に縛られず

最後のものは,一見すると国立大学運営費交付金は確保するという意味にも読めますが,他方無駄削減の名の下で大なたが振るわれる可能性もあり,結局これだけではよく分かりません。
大学は夏休みに入ったものの,私を含む一般の教職員・学生の見えない所で,日本の大学・学術にとって天下分け目の戦いになるかも知れぬ夏の陣が進められていくのでしょう。後から見れば,法人化は大坂冬の陣,今年のシーリングは大坂夏の陣になぞらえられるかも知れません。

さて,今回の件については,近日中に次の二つのエントリを書きたいと思っていますが,自分のメモ代わりの意味も合わせて,要点を書いておきます。

1.国立大学民営化への道
 財政審の提言・財務省の野望が,3年連続1割減で実現する
 一律予算削減のどさくさで強制的に進められる「大学改革」
 私立大学の増大傾向からの必然性
 勢いを押しとどめる者がいない国

2.法人化の岐路
 予算の大幅削減で中期目標・計画実行は不可能
 評価→改善のプロセスをぶちこわす財政の論理
 国立大学の機能停止はありうるか

by bamboo_hermitage | 2010-08-07 02:28 | 大学


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